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coffee 6 「物を運のないコンベアー設計者」
- 私が大変尊敬している、大学時代からの先輩に関するお話です。彼は非常に優秀な「機械設計者」であります。
この先輩凄いのは、とにかくユニーク極まりない図面を書き上げてしまいます。
例えば「物を運ぶことの出来ないコンベア」であったり、「物を包むことの出来ない包装機械」などを
設計することを最も得意としていましたから。
- 私が営業マンとしては最大限の努力と知恵を絞ってお客さんと打ち合わせ、内容を具体的にまとめて会社に持ち帰ります。
そして彼と打ち合わせを行い、図面ができると大概の場合搬送部分のコンベアが全く機能しない事があります。
- 最初からこのような事を書き出したら先輩ご本人が気分を悪くするでしょうし、この話を読まれた方が先輩の素晴らしさを大きく誤解してしまうでしょう。
種明かしとして、この設計者の意図する内容を具体的に説明してからコボレ話に入ります。そうでないと2度と彼に顔出しできなくなる可能性がありますから。
- 結論から先に申し上げれば、彼の頭の中には、「物を運ぶ為のコンベア」それ自体の必要性を最初に考えて設計に入る人物であります。私が営業として無い知恵を絞って考えたコンベア配置を、いとも簡単に覆してしまう才能が有るのです。
- 後で考えてみれば・生産工場の省力化とか合理化に結びつくコンベアの存在は素晴らしいものですが、ところがよく考えるば「物を移動するコンベア」などは、そもそも必要があるのかどうか、考えることの方が遥かに重要なことであるわけです。コンベアなどを使わずに能率良く生産が可能であれば、設備費用も浮き、工場スペースも広く使えるのだと言うことをいつも思い知らされたのが現実でした。
- しかし、客先との間で打ち合わせた資料を基に「これくらいの売上で、これくらいの設備内容だ」と考えていた私にとって、出て来た図面がまるで異なっているのです。たしか米が14kg詰めの紙袋包装から10kgのポリエチレン包装に変わる頃のことでした。「自動包装とコンベアのセットは必要不可欠の関係」と、それなりの自信と誇りを持って計画した私の案は、根底から覆されたのです。
- 10kgの米袋が、2mの間に5個乗るから平均荷重は、50kgそんな計算は、彼にかかると全く無意味なのです。10kgの米袋を2mの間に5個も並べる必要は無い、2mの間の移動をなくす方法を駆使した省力装置を考え出したのですから。結果的には彼の設計した設備は最も合理的で客先からも喜ばれその後も多くの設備合理化に貢献したわけですが、私と同輩で同じ営業を行っていたY氏が前後の経過を知らずに出来上がったコンベアを見て発した言葉「エーこんなコンベアで米が運べるのか?」そうなんです。運べないのです。と言うより運ぶ必要の無い構造とシステムが完成してたのです。
- あまりに印象の深かったY氏の言葉から、設計の彼氏の事を皆は、「物を運ばないコンベアの設計者」として尊敬しました。その後も「包む事の出来ない包装機」を始めとする各種の機械を設計し、現在も活躍を続ける先輩からつい先日電話をもらいました。懐かしさと先輩への尊敬の念を込め、今回こんなたわいも無い話を書きました。
- 私もこの先輩の発想と決断力と説得力に少しでも近づける様な機械設計者になるよう努力を積み重ねて行こうと思っています。包装業界に身を置き、包装を無くす努力をすると言うのも変ですが、しょせんは物流の世界の一端を支える業界です。物の移動や保存に包装なんて無い方が良いに決まっている事を肝に銘じて頑張りましょう。
津曲輝行
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